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2014年1月 8日 (水)

「俺の考えた芋煮」

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これが、辿り着いた「芋煮」です。

私は人生の大半を、日本全国民が最も興味を示さない県である群馬の前橋市で過ごしました。ですので、世間知らずです。

肉じゃがの肉は豚肉がスタンダードだと思っていました(本当は牛肉だが群馬県は養豚が盛んなため)。

煮干しでだしを取った料理の煮干しは、取り除かずに一緒に食べると思っていました(海なし県で海産物が貴重なため。あと幼少期に貧乏の家に育ったため)。

料理は好きです。作るのは主に田舎料理です。キッチンに西陽が射しはじめる頃、煮物料理の手始めに大根を下茹でしている時のあの落ち着いた香り…。そんなひと時が大好きです。

そう考えると、料理は単に作って食べるものだけではないと思います。調理の過程、食べる過程、どんな人と、どんな場所で、どんな思いで…。



ですから、食は様々な思い出を作ってくれます。それが人生の糧になる。

そして、東北地方には、そういった思い出を紡ぎ合い、分かち合い、人と人との繋がりを強める、独自の風習があります。

それが、「芋煮」。


他の地方の者にとって、それは全く未知の世界です。
秋になると全国ニュースで必ず放送されるショベルカーを使った「巨大芋煮会」。あの印象しかありません。
いったいどんな食べ物なのか、私は見たことも食べたこともありません。

(そのニュースで「芋煮」自体を映すと思うのですが、ショベルカーと大きな鍋が強烈すぎて、食べ物は全く印象に残っていません。)

しかし、職場の元ミス山形、Hさんのお話では芋煮会は東北に欠くことのできない行事であり、友人、地域、職場、その他、様々な人間関係を支える社会インフラなのだと言います。

私  「芋煮会ってバーベキューみたいなものですか?」

Hさん「バーベキューだあ?はん!欧米か?!」(だいぶ古い…。)
私  「いや、えーと、この辺ですと、河原ではバーベキューっていうのが一般的なんですけど、芋煮ってなんだか地味じゃないですか?」
Hさん
「…おい、もう一度言ってみろ。おまえのところに秋田・岩手・山形・宮城・福島から一人ずつ手下のヒットマンを送り込んでやろうか?
私  「すみません!すみません!そんなつもりじゃ…。でもジャガイモが主役なんて…。」
Hさん
「ジャガイモ?!バカなこと言ってんじゃねえよ!芋煮は里芋だろ!刺すぞ!」
    「ああ!すみません!すみません!本当に何も知らないんです!許してください!」
H
さん 「いいか、芋煮っていうのはなあ…」
私  「あ、待ってください。東北の方がいかに芋煮を大切に思っているかわかりました。ですから、その気持ちをもっと汲みとって、形にしてみます。『俺が考えた芋煮』を作ります。次のルールで。」
H
さん 「ルール?」 

 

 

 

「俺が考えた芋煮」ルール

 

 ・レシピを調べてはいけない。
 
webなどで調べて良いのは、「芋煮会の思い出」「今日芋煮会で」「芋煮会あるある」など、東北の方たちの芋煮にまつわる楽しい雰囲気が伝わってくるHPやブログなど。
 ・上記を読んでいるうちに具体的なレシピが出てきそうになったら即シャットアウト。
 ・乏しい事前知識と地元の方たちの「楽しい、おいしい想い」だけを頼りに考え作ってみる。

…事前知識…

 ・イモはジャガイモでなく里芋だ。

 ・肉は入るが、何の肉かは不明。

 ・旬の野菜が入る。

 ・しょうゆ仕立てと味噌仕立てがあるらしい。

 ・だしは取るのか取らないのかわからない。

…うっ、ほぼ知識ゼロだ…。

 

そして一か月間、様々な「芋煮」や「芋煮会」に関するHPやブログを見て回りました。

幼少期からの「芋煮」がいかに東北人の根底を形造っているのか実感しましたし、やはり多くの若者が故郷を離れ関東や東京に出ていく現状がありますので、「芋煮」はふるさとへの思いに直結します。つまり、アイデンティティーそのものなのです。
はたして、私はそれを形にできるのか…?

11月のある日、いよいよ、作ってみました。

○味噌仕立てにしてみよう。

しょうゆ仕立てだと、味の濃淡でしょっぱくなったり淡泊になったりと幅広くなり、求められるキメどころが曖昧になりやすい。ここは味噌で勝負します。

○野外料理だ。だしに手間ひまかけることはないと思う。

ですから、大掛かりに仕立て前にきちんとだしを取ることはないと考えました。だしは具材に任せて取らないのではないか?それとも…。ここは安全策として、手軽にほんの少しだけほんだしを入れてみました。

○里芋は丸か薄切りか?

一口大の丸か?それとも厚さ5ミリ程度の薄切りか?群馬で主に食される「けんちん汁」には里芋は丸

では入りません。

しかし、屋外で長い時間鍋を囲むわけです。丸でないと煮崩れしてドロドロになりそうです。ここは一口

大の丸でしょう。

○秋の旬材と言えば…、

芋の他に、キノコは入ると思います。でも、何が?

仕立てが味噌・砂糖・酒なので、どうしてももう一手の旨味というかだしを考えるとシイタケが良いので

は?ここは個人的にも大好きなシイタケでいきます。

○他に何が入るのか?

Hさんは、「基本はシンプル。」と言っていました。では絞ろう。

選んだのは里芋、シイタケの他に…、

・ネギ…旬ですし、後入れで瑞々しく、煮込めば濃厚。鍋なんだから欠かせない。

・厚揚げ…豆腐も考えましたが、ここは煮崩れしない厚揚げで。鍋ひとつですから、後半様々なエキス

を吸って食べ頃になる主食級も必要ではないかと。

○あー!もっと入れたい!いろいろ入れたい!

と、思いますが、我慢します。もし、しょうゆ仕立てにして大根・人参・ごぼうなどの根菜やこんにゃくなどを入れてしまったらけんちん汁になってしまうし、味噌仕立てで豚肉を使ってしまったら具だくさんの豚汁になってしまいます。
手探りのまま、「芋煮」座標の中心を突きたいのです。誘惑には負けません。

○肉は?

味噌仕立てと決めた時点で、牛肉を選択しました。

豚汁化は避けたいのです。豚肉が入ってしまうとなんでも群馬味になります。ここは牛です。子どもの頃憧れた、裕福な家の子しか食べられなかった牛で行きます。

 

Dsc_1180
牛肉のためだいぶ灰汁が出ます。実際の芋煮会にはバーベキューの焼き係ならぬ灰汁取り係がいるのでしょうか?


そして、出来上がりました。
出来上がってから、初めて様々なサイトで「芋煮レシピ」を確認しました。

そして、そこにあったのは…、正にカオスです。

地域性が様々で、「これは豚汁だろう!」「いやいやこれはけんちん汁だろう!」「ていうか、もう里芋が入った寄せ鍋だろう!」「すき焼きだよなあ…。」「え?きりたんぽも芋煮の範疇に入るの?」「洋風って言うけど、もう完璧にプロバンス料理だよね?」「違うイモが入ってますけど…。」



突っ込んでも突っ込んでもきりがない、なんでもありの世界でした。

結局、なんでもいいのだ。そこに里芋さえ入っていなくてもいいのだ。


はたして、私が作ったこの料理は、「芋煮」なのでしょうか?

 

Hさんに食してもらうと…、

「ま、芋煮ね。味が薄いけど。東北料理の塩分濃度は1オクターブ高いのよ。あとはね、味噌仕立てだったら豚肉ね。豚汁にしたくないという気持ちもわかるけど。それにキノコはシメジがスタンダード。シイタケは好き嫌いがあるでしょ?厚揚げはナイスチョイス。手でちぎって味が染みやすいようにしたのはよくできました。」

とのことでした。

 

しかし、「芋煮」を理解するには、調理したり食したりするだけでは足らないのです。

そこには正解も不正解もあるから。

正解としては、里芋が入っていれば「芋煮」。不正解としては、コミュニティーとアイデンティティー伴っていないと、本当の「芋煮」ではない。

たった一人で、キッチンで作って食べても、それは「芋煮」ではないようです。


東北に生まれ育った人にとって、「芋煮」は料理ではないのかもしれません。

それは、ふるさとの短い秋の思い出であり、様々な人と接する成長の場であり、個人・家族・地域・社会、すべてを紡ぐ、人と人とを結ぶ絆なのです。

 

本当に大切な、宝物だと思いました。

Hさん、ありがとうございました。






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